認知行動療法とは
「認知行動療法」とは、「起こった出来事」がストレスを生み出してるのではなく、「起こった出来事に対する認知」がストレスを生み出しているという考えに基づき、認知や行動に働きかける事で、ストレスを軽減したり気持ちを楽にしようとする心理療法です。
認知とは簡単に言うと「物事の受け止め方」、「物の見方」、「考え方」のこと。
私たちは日常に起こる出来事を自分の「受け止め方」、「見方」、「考え方」で判断しています。
受け止め方は人それぞれ、同じ出来事が起こったとしても、それを悩むかどうかは、その人の受け止め方次第で決まるということです。
よく言う「ポジティブ思考」や「ネガティブ思考」、「プラス思考」や「マイナス思考」は、その受け止め方の傾向を表しているということになります。
例えば、次の図のような例を見てみましょう。
起こった出来事に対して、特に意識することなく瞬間的に頭に浮かぶ考えを「自動思考」と言います。
自動というだけあって、その瞬間に自分ではコントロールできない思考のことです。
ちなみに、感情と自動思考は、ほぼ同時に感じたり、自動思考に気付いてから改めて感情が変化したりと、行ったり来たりすることもよくあります。
オレンジとブルー、それぞれの「自動思考」の違いから、その後の行動が全く違うものになってしまいます。
この自動思考には人それぞれのクセ(スキーマ)が潜んでいます。
ブルーのパターンのように、物事を悪い方向へと、偏った受け止め方になりがちな思考のクセを「認知の歪み」といい、それが不安やイライラを生み出し、悩みや苦しみの原因になっている・・・ということがよくあるパターンです。
それは、オレンジの思考パターンになっていれば、生まれるはずのなかった悩みを、自ら引き起こしてしまっている状態とも言えます。
まずはその歪みの部分に気付き、意識の持ち方や行動を変えていくことで、自分の考え方にも変化を起こし、視野を広く、より柔軟なものへと整えようとすることが認知行動療法の基本的な考え方です。
では、どうやって歪みに気付く事ができるのか?
「認知の歪み」は、既にある程度パターン化されていますので、それを知ることで、セルフチェックできます。
「認知の歪み」10のパターン
認知の歪みは、アメリカの精神科医、アーロン・T・ベックによって、理論が生まれ、弟子であるデビッド・バーンズによって、その概念が広がっていきました。
たくさんパターンがありますが、ここでは代表的とされる10項目をご紹介します。
自分自身に当てはまるものがないか、チェックしてみましょう。
先にお伝えしておきますが、「当てはまる=ダメなヤツ」なんてことではありません。
思考のセルフチェックとして、ちょっとした心理テストくらいの軽い気持ちで正直にチェックしてみることをお勧めします。
白黒思考(オール・オア・ナッシング)
物事を、白か黒か、0か100かで判断してしまう、極端な完璧主義思考です。
100%完璧でない限りは、全て0ということになります。
人間に100%はあり得ないため、常に満足感や幸福感が得られない状態が続きます。
また、他人に対しても同様に100%を求めてしまうため、些細なことで人間関係を壊してしまう事もあります。
- 一つ嫌なことがあっただけで、今日は最悪の一日だった!
- 少しミスをしたら、能力自体がない
過度の一般化
1度や2度起こった出来事を、これからもずっと起こることだと決めつけてしまう考え方です。
また同じ目に会いたくないという恐怖心から、自分のほうから物事を遠ざけるようにします。
- 前回失敗したから、今回も失敗するに違いない
- 昔、浮気をされた。男(女)はみんな浮気する
心のフィルター(フィルタリング)
良い面をシャットアウトして見ようとせず、悪い面だけに注目する考え方です。
- 辛い失恋をしたから、学生時代に良い思い出なんて一つもない
- 自分の意見に賛成してくれる多数よりも、反対してくるたった一人のほうが気になってしまう
マイナス化思考
心のフィルターと似ていますが、こちらは、プラスの出来事を見つけても、マイナスに置き換えてしまう考え方です。
- 最近良い事が続いたから、次は悪い事が起こるんじゃないか
- 友だちが珍しく誘ってくれたけど、社交辞令だろうな
結論への飛躍
結論への飛躍には、更に2つのパターンがあります。
心の読みすぎ
他人の断片的な行動や言動から、その人の気持ちを勝手に決めつけてしまう考え方です。
先読みの誤り
分かるはずのない未来を、勝手に決めつけてしまう考え方です。
- LINEしたのに既読スルー、嫌われたに違いない
- 自分には、これからも幸せなんてやってこない
感情的決めつけ
その時の自分の感情を根拠に、物事を決めつけてしまう考え方です。
- イライラが止まらないのは自分の心が狭いからだ
- 不安ばかり感じるからきっと失敗するに違いない
拡大解釈と過小評価
自分の失敗や短所は必要以上に大きく考え、成功や長所は必要以上に小さく評価します。
他人に対しては逆で、失敗や短所は小さく、成功や長所は大きく評価したりします。
そのことにより、他人をうらやむ事もあります。
自分に厳しく他人に優しいと言うと良く聞こえるかもしれませんが、自分を正当に評価していないという意味で、自分に厳しいのではなく、自分に冷たい考え方と言えます。
- あなたの失敗は大した事ないけど、私の失敗は致命的だよ
- 今回はたまたまうまくいっただけ、いつもの何もできないのが自分の実力
すべき化
明確な根拠のないまま、「~すべき」、「~しなければならない」、「~であるべき」というルールや信念のようなものを作り出し、自分や他人を縛り付けてしまう考え方です。
強く信じていることが多いため、できないことに落ち込んだり、守れない人に怒りを感じたりといったネガティブな感情につながります。
- 恩を受けたなら必ず返すべきだ
- 責任ある立場なら体調不良くらいで仕事を休んではならない
レッテル貼り(ラベリング)
自分や他人に対して、事実かどうかも分からない悪いレッテルを貼ってしまう考え方です。
「過度の一般化」と似ていますが、「過度の一般化」は人物だけでなく出来事も一般化してしまうのに対して、こちらは「レッテルを貼る=(悪い意味で)評価する」という意味で、対象は人に限定されます。
- この程度のことができないのは、自分が無能だからだ
- 折り返しの連絡がないのは、冷たい人だからだ
自己関連付け(個人化)
明確な根拠なく、悪い出来事を自分のせいにしてしまう考え方です。
- 両親が離婚したのは自分のことが原因だ
- 友だちがケガをしたのは、私が誘い出したからだ
「歪み」ではなく「特性」
いかがでしょうか?
当てはまるものはありましたか?
むしろ、一つも当てはまらないという人は少ないと思います。
例えば、「拡大解釈と過小評価」などは、謙虚さを美徳としてきた日本人なら結構多いタイプではないかと感じます。
「過度の一般化」も、「みんなやってるんだから!」という育てられ方をしてきた日本人には多い気質と言えます。
また、「すべき化」も、一昔前の日本企業には当たり前のようにあって、最近になってやっと改善されつつあるようなレベルではないでしょうか?
「歪み」という言葉が使われているため、当てはまるものがあると、自分が歪んでるとかねじれてるとか思ってしまうかもしれませんが、そういうことではありません。
名前がついてしまっているため、今でも「認知の歪み」と呼ばれてしまいますが、近年ではこれを「歪み」ではなく「特性」であると考えるようになってきています。
「歪み」と呼びながらも、「では歪んでないのはどういうものか?」と問われても、人間の思考にこれ!という絶対の正解はなく、相手や状況によって変化するものだからです。
「歪み」ではなく「特性」なら、無理してまで治すとか矯正する必要はありません。
「別の視点もある」と気付く事ができれば、今の「特性」を持ったままでも新たな選択肢が増えて、思考の幅が広がったり、柔軟性が生まれます。
その「別の視点」に気付くために有効な方法として、「コラム法」があります。
※分かり易くするために、この記事ではそのまま「歪み」という言葉を使用します。
コラム法(認知再構成法)とは?
「コラム法」とは、「コラムシート(思考記録表)」と呼ばれる紙に自分の思考を書き出し、目に見える形にすることで整理し、改めて見つめ直して、認知の再構成を狙う技法です。
このマニュアルでは、その中でも代表的とされる「7つのコラム法」の具体的な書き方と考え方を説明します。
マニュアルの最後に白紙のコラムシートを添付していますので、必要に応じてご活用ください。
ただ枠線があるだけの簡単な様式で、ネットでも拾えますし、WordやExcel、手書きでもすぐ作れるような内容です。
もちろん枠線などなしで、ただノートに書くだけでもOKです。
目的は頭の整理をすることですので、その妨げにならなければ、どんな様式でも問題ありません。
それではまず、次の画像でコラムシートへの記入例を示した後で、それぞれの項目に関して解説していきます。
7つのコラム(思考記録表)~書き方~
①状況
今朝、友達と二人、カフェでお茶をしていた時、意見の違いから言い合いになって別れた。改めて午後に電話をかけたが出てくれず、夜になっても折り返しがない。
落ち込んだり、イライラしたり、ストレスを感じたりした時の出来事を、できるだけ細かく書きます。
ただ「友だちと言い合いした」だけじゃなく、今日の出来事なのか、昨日の出来事なのか、時間の経過によって気持ちの強さに影響があるはずです。
また、二人きりなのか、他に誰かいたのか、職場なのか、お店なのか、など、環境によっても受け止め方が変わる可能性はあります。
「人間は環境の動物」と言われるほど、周りの環境から影響を受けています。
その環境とは、周りにいる人間も含めての意味です。
②気分
不安(80%)、落ち込み(90%)、悲しい(70%)、憂鬱(80%)
その時に感じた気分と、その強さをパーセントで書き出します。
気分や感情とは、文章ではなく一言で言い表せるものを指します。
深く考えるのではなく、直感で書きましょう。
③自動思考
嫌われたかもしれない
瞬間的に浮かんだ考えです。
気分と自動思考は連動する部分もあり「嫌われてるかもしれない」と思ったことで、初めて落ち込みを感じるということもあり得ます。
必ず先に気分を書く必要はなく、瞬間的に強く思った方から先に書いて構いません。
ちなみに、この「嫌われたかもしれない」というのは、「認知の歪み」パターン「結論への飛躍」の1つ「心の読みすぎ」というヤツです。
この段階で自分の歪みに気付けるようになるのが理想です。
自動思考を見つけたら、どのパターンに当てはまるかを探してみましょう。
④根拠(客観的事実)
意見が食い違った。 朝、言い合いをして、午後に電話をしたが、夜まで連絡が取れていない。
ここで必要なのは事実だけです。
自分の考えや、推測、予想などが混ざってしまわないよう、特に気を付けましょう。
「連絡がこないんだから、嫌われてる可能性はある」
と言えば、もっともに聞こえますが、逆に「嫌われてない可能性」も同じようにあります。
「可能性」とか「かもしれない」、「~に違いない」などは、事実ではなく個人の主観ですので、この言葉が登場してきたら間違いです。
改めて事実は何か?を探してみましょう。
⑤反証
普段は意見が合う。連絡が取れてないのは、午後から夜までの数時間。 相手からは嫌いだなど何も言われていない。
ここでも必要なのは事実のみで、個人の考えなどは混ぜないよう気を付けましょう。
特に意識したいのが「相手からは嫌いだなど何も言われていない」という部分。
何かされたらまず忘れませんが、「何もされていないという事実」は意外と見落としがちです。
難しいなと感じる時は、「友達から同じ内容で相談されたらどうアドバイスするかな?」と、目線を変えて考えてみましょう。
また、論理思考の方であれば、「その考えに証拠はあるのか?」と論理的に考えてみると分かり易くなるでしょう。
「証拠のないもの=事実ではない」ということです。
この「根拠(客観的事実)」⇒「反証」の流れがコラム法の中で一番難しい部分だと思います。
ここで個人の主観を除いた「事実」にしっかり目を向けられるかどうかが、この後の項目に影響する事になります。
⑥適応思考
今日は意見が食い違った、しかし、普段は合う。
電話をしても折り返しがない、しかし、まだ数時間しか経っていないし、嫌いと言われたわけでもない。 ⇒ただ忙しいだけ?明日かかってくるかも?待ってみよう!
「根拠」で書き出した内容と「反証」で書き出した内容を「しかし」でつなげてみると分かり易くなります。
ここは事実だけではなく、自分の思考も書いて構いません。
「ただ忙しいだけ?」「明日かかってくるかも?」というのは、ただの想像ですが、「嫌われたかも?」という想像だけに支配されていた所に、前向きな想像が追加されたことが重要です。
色んな想像ができるようになることで、「待ってみよう!」という柔軟な選択もできるようになります。
かも?」という想像だけに支配されていた所に、前向きな想像が追加されたことが重要です。
色んな想像ができるようになることで、「待ってみよう!」という柔軟な選択もできるようになります。
⑦今の気分(%)
不安(50%)、落ち込み(40%)、悲しい(30%)、憂鬱(40%)
改めて気分を見直してみましょう。
パーセンテージが下がっていれば、うまくいっています。
あまり変化が感じられないと思うようであれば、やはり「反証」の部分を見直してみましょう。
「コラム法」に慣れよう
コラム法は、繰り返しやっていくことで慣れてきます。
例えば今回の「連絡が取れない」というような事例の場合、「そうは言っても相手からの連絡があるまで落ち着かない!」という思いが強く、反証はできてもあまりパーセンテージが下がらないと感じる人も当然います。
ただ、最初はそうであっても、コラム法を繰り返しやっていくことで、発想を転換しようとするクセがついてくるようになります。
思考のクセは長い年月をかけて作られてきたものなので、そう簡単に消したり治したりできるものでもありません。
しかし、今までと同じようにマイナスな発想をしてしまったとしても、その後で自然と転換をしようとするクセがついてくれば、悩み方やストレスの感じ方が、少しずつ、そしてしっかりと変わってくるようになります。
「認知の歪み」にパターンがあるように、「歪みに気付いたら発想を転換する」という新しいパターンを自分の中に作れれば、同じ事で繰り返し悩むという事は明らかに少なくなっていくでしょう。
そこまでいくと、日常の小さなイライラやモヤモヤ程度なら、あっという間に消してしまうことも不可能ではありません。
まとめ
認知行動療法の主要スキルの1つ、コラム法が1人でできる方法をご紹介しました。
記事の最後で、コラムシート(PDF)がダウンロードできますので、必要な方はご活用ください。
コラム法に限らず、「思考を紙に書き出す」という作業は、頭の整理にかなり有効です。
まず、思考を文字にしようとする段階で、少なからず整理しなければならず、次に書くという行動を起こし、更に、出てきた文字を視覚で確認することになります。
頭で考えていることに加えて、「書くという体感覚」と「見るという視覚」の2つの感覚を使って再認識することで、必然的に整理されていく部分がかなりあります。
コラムシートでも、最初の項目である「状況」を書いただけで、何も解決していないのに少し気持ちが落ち着く・・・ということもよくある話です。
1人でできて、必要なのは紙とペンだけ、メモ帳的なアプリを使えば、PCやスマホでもでき、ほぼ完全にコストゼロでできるのもメリットです。
ただ、書くのに慣れてない人からすると、いきなり白い紙に向かっても「何を書いたらいいか分からない」ということになってしまうため、コラムシートはとても有効な方法と言えます。
書くのに慣れている方や、コラムシートまでやるのは面倒だなと思う方は、紙でもアプリでも、書式を気にせず書き出すだけでも、頭の整理につながります。
厄介な「思考のクセ」も、「書き出すクセ」を身に付けることで、バランスがとり易くなっていくでしょう。
いきなり大きな変化にはなりにくいですが、ある日ふと、自分の悩み方が変わってきたことを実感するはずです。
ちなみに、私自身の経験を少しお伝えしておきますと…
心理カウンセラーになってから、コラム法を初めてやってみましたが、その時はうまくいきませんでした。
思考の整理には慣れているので、自動思考から適応思考まであっという間に辿り着けるんですが、感情が収まったような感覚にはなれませんでした。
何度か試してみて、「これは自分に向いてない」と思い、元々慣れているただ紙に書き出すという方法に戻りました。
ところが、自分で紙に書いたものをよく見直してみると、「自動思考」⇒「根拠」⇒「反証」がしっかりと書かれていました。
どうやら、気分をパーセントにする感覚が馴染めなかったらしく、それ以外の部分はしっかりとコラム法になっていたことに気付きました。
悩みとの向き合い方は人それぞれです。
まずは基本通りやってみることをお勧めしますが、合わないなと思うものを無理して続けることは辞めましょう。
コラム法で大事な部分は、自動思考に対して適応思考が見つけられる事です。
その大筋から逸れてなければ大丈夫です。
むしろ、細かなテクニックにばかりこだわってしまうほうが、意味がないと思います。
どんな人でも、その人なりの悩みを抱えています。
人間である以上、悩みをゼロにすることはできませんが、悩む時間を短くしたり、深みにハマらないようコントロールしたりという「悩み上手」にならなれます。
自分なりの「上手な悩み方」を見つけるために、もしこの記事が参考になれば嬉しいです。
そして、自分なりの方法が見えてきたら、是非、周りの人にも教えてあげてください。
コラムシート
自分でできるリフレーミング
更に有効にコラム法を活用したい方には「リフレーミング」をお勧めします。
「リフレーミング(Reframing)」とは、私たちが物事を認知する際のフレーム(枠組み)を組み直すことによって、意図的に自分の好ましい受け止め方を導き出す心理テクニックです。
コラム法の「反証」の部分などで、さらに柔軟な解釈ができるようになります。
更に慣れてくれば、コラムシートなどに書き出すことなく、自分の頭の中だけで思考を切り替えることも可能です。
下記の記事で詳しく解説しています。
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